いらっしゃいませ/夏石鈴子

スチュワーデス志望のありがちな短大生*1が、なぜか突然出版社を志望し、合格。受付として働く1年間を描いた小説。

現在、社歴およそ20年目の文藝春秋社の社員であり、映画プロデューサー・荒戸源次郎の妻であり(以上のプロフィールは巻末の白石一文の解説による)、作家である著者の当時の体験をもとに描かれた小説なんだけど、ちょっと穴が多い。

まず、描かれる人事・職務形態があまりに独特で(たぶん文藝春秋社独特のもの)、さらに、20年前の状況のまま書いているわりには、特に時代設定の断りがなく現代小説としてしまっているので、つまり、いわゆるいまはやりの「職業ものフィクション」として読めるものにはなってない。

じゃあ、不満なのかと言えばそんなことは全然なく、小説としての読み応えは十分。というか、情報性なんか重視しなくてもいい強さがあるから、逆に情報性を重視しなきゃ成り立たない職業小説、職業漫画と同じ地平で評価しちゃいけないな、と思った。

うーん、穴だらけだけど魅力のある小説。うまく褒めるのが難しい、やっかいな一冊。すまん。でも、とにかく満足したし、この著者のほかの作品を今後読みたいと思ったのは間違いない。

あと、似たような小説としてパッと思いつく、三浦しをんの『格闘する者に○』を、参考図書として挙げておく。オレは『いらっしゃいませ』のほうが好き。


いらっしゃいませ (角川文庫)


格闘する者に○ (新潮文庫)

*1:というふうに書かれている。オレがそう言ってるわけではない